認知症の親からの生前贈与は可能でしょうか?【弁護士が解説】


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

 

相談者:福岡市 Aさん
私は親の所有する不動産に住んでいます。

親からは「いずれ、この不動産はあなたにあげる」と言われていました。

しかし、最近になって親が認知症となり、兄弟がその不動産をほしいと言っているため、本当に不動産をもらえるのか不安になってきました。

認知症の親に遺言を書いてもらったり、贈与を受けたりすることはできないのでしょうか?

また、親には成年後見人を付けることも考えているのですが、成年被後見人となった後はどうでしょうか?

 

 

弁護士の回答

認知症の程度にもよりますが、すでに認知症である親に、遺言を書いてもらったり、贈与をしてもらったりといったことはやめたほうが良いでしょう。

 

認知症の場合

今回の質問者の状況ですと、兄弟が「不動産がほしい」と言っているということなので、相続時に遺言や贈与の効力を争ってくることが考えられます。

遺言にしても、贈与にしても、その当時に遺言能力や意思能力がないことになれば、無効となってしまいます。

そして、遺言を書いた当時や贈与をした当時に認知症であった場合には、遺言能力や意思能力がないとされる可能性があり、遺言や贈与が無効だと主張され、兄弟間で泥沼の争いになる可能性が高いです。

もしそのような争いになれば、訴訟に移行することも念頭に置かなければならず、そうなってしまうと仮に遺言や贈与が有効だと判断されても、かなりの時間がかかることになることになります。

根拠条文

第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

引用:民法|電子政府の窓口

 

 

成年被後見人の場合

成年被後見人は遺言ができないわけではありませんが、成年被後見人となった後の遺言については、成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において、医師2人以上の立会いがなければならないとされています。

また、その立ち会った医師により、遺言者が遺言時に事理弁識能力を欠いていなかった旨が遺言書に付記され、その医師の署名押印がなされていないといけません。

そのため、成年後見人となった後に遺言を書いてもらうことは困難です。

また、贈与についても、成年被後見人は行為能力が制限されているので、贈与をしたとしても、成年後見人により取消される可能性があります。

 

 

税金についても考慮に

また、贈与の場合には、相続に比べると課税額が高くなることも押さえておく必要があります。

今回の質問のように、不動産の贈与の場合には、贈与した認知症の親に譲渡所得という所得が発生する可能性があり、贈与を受けた質問者にも多額の贈与税が課されることになる場合がほとんどです。

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これらのリスクを考えると、遺言にしても、贈与にしても、認知症になった後にしてもらうのは得策とはいえません。

 

 

認知症の遺言や贈与の問題点

遺言能力・意思能力の有無の判断が難しい

認知症の遺言の場合、上記とおり、遺言能力がなければ遺言の効力が否定されることとなります。

そのため、遺言能力の有無がポイントとなります。

認知症の贈与の場合、上記のとおり、意思能力がなければ贈与は無効となります。

そのため、意思能力の有無がポイントとなります。

しかし、素人の方がこれらの判断をすることはとても難しいといえます。

相続問題に詳しい弁護士であれば、具体的な状況をヒアリングして、遺言や贈与が認められるか否かについて、見通しを立てることができます。

そのため、相続専門の弁護士に相談されることが重要となります。

 

遺言書や贈与契約書の作成

仮に、遺言能力や意思能力が備わっているとして、次に、遺言書や贈与契約者の作成が問題となります。

遺言書には、法定の要件があります。

この要件を満たさないと、せっかく遺言書を作成しても、遺言が無効となってしまうリスクがあります。

なお、当事務所では遺言書のサンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。

また、贈与については、口頭でも成立しますが、書面にしておかないと、後々親族間での対立が激化するリスクがあります。

遺言書や贈与契約書について、作成をお考えであれば、まずは相続問題に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

 

認知症の親から生前贈与をしてもらうためのポイント

上記の問題点を踏まえて、認知症の親から生前贈与をしてもらうためのポイントについて解説します。

 

主治医の先生と面談する

遺言能力や意思能力は、微妙なケースほど適切な判定は困難です。

そのため、主治医の先生と面談して、贈与等が可能か否か、意見を聞かれることをお勧めします。

また、「問題ない」と言われた場合、後からトラブルとならないように、カルテにその旨記録しておいてもらうと安心できるでしょう。

なお、認知症の衰えをチェックするためのツールとして、「長谷川式簡易知能評価」というものがあります。

引用元:改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)|一般社団法人 日本老年医学会

ただし、医師の意見が重要ですので、あくまで参考程度にされてください。

 

税理士にシミュレーションをしてもらう

生前贈与が可能だとしても、相続税よりも支払い税金が高額となる可能性があることを踏まえると、慎重に進めたほうがよいでしょう。

相続税に詳しい税理士に贈与した場合と相続を受けた場合の税金について、シミュレーションをしてもらうなどして、生前贈与をすべきか否か判断されることをお勧めします。

 

適切な遺言書・贈与契約書を作成する

贈与や遺言書を作成する場合、法的に有効で、かつ、適切な内容の書類を整備すべきです。

当事務所では、ホームページから、サンプルを無料で可能です。

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ただし、上記サンプルはあくまで参考程度にされてください。

 

 

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