相続人が勝手に不動産を売却してしまったのですが、取り戻せますか?


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

遺言執行者がいる場合の相続について質問です。

私は、亡くなったAと一緒に暮らして最後まで看病をしており、婚姻届けは出していませんでしたが事実上の夫婦のような関係でした。

Aには、前妻とのお子さんBがいたようですが、顧問税理士と相談をして遺言で収益物件である駐車場を私に遺贈してくれるように書いていたようでした。

その税理士が遺言執行者になっていたので、Bに通知を送ったようなのですが、Bは遺言の内容に腹を立てて、勝手に駐車場の土地の名義を変えてCに売却してしまったようなのです。

遺言執行者がいる場合には、勝手に遺産を処分しても無効となると聞いたのですが、どうなのでしょうか。

教えてください。

相談者さんの指摘する通り、平成30年の民法改正前においては、遺言執行者が遺言に定められていれば、遺言執行者の行為を妨げることはできず、これに反する相続人の行為は絶対的に無効になるとされていました。

この場合、駐車場を購入したCさんが保護される余地はなく、相談者さんが駐車場の土地を取り返すことができるといえます。

しかし、平成30年の改正民法施行後においては、第三者の保護規定が創設されたので、Cさんが遺言執行者の存在を知らなかった(法律的には善意といいます)のであれば、売買自体が無効であるという主張をCさんには対抗できないことになります。

一方、Cさんが遺言執行者の存在を知りながら売買をしたのであれば、売買が無効となります。

もっとも、Cさんが善意で、売買が無効とならなかったとしても、相談者さんとCさんは対抗関係に立つことになります。

つまり、駐車場の土地の登記を先に得たほうが土地を取得することになりますので、もし本件でもCがまだ所有権移転登記をしていない場合には、遺言執行者が先に相談者さんの登記名義に移すことで駐車場を取り戻すことができます。

遺言執行者がいる場合の相続人の遺産の処分

相続人がした処分の効力と第三者保護規定

弁護士平成30年民法改正以前より、民法1013条には「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定されており、判例はこの条文から遺言執行者がいる場合の相続人の遺産の処分は絶対的に無効だと解していました。

しかし、このように解すると、遺言や遺言執行者の存在を知る由もない全くの第三者が不利益を被ることになり、結論として相当ではないと言われてきました。

そのため、平成30年の民法改正では、同条第2項に「ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない」という第三者保護規定が設けられることになり、遺産を購入した第三者が「善意」であれば、その取引が無効であることを対抗できないことになります。

 

善意の対象と過失

善意というのは「知らなかった」という法律用語ですが、ここでいう善意の対象は「遺言執行者の有無」と言われています。

そのため、遺言があったことを知っていた場合や、遺贈があったことを知っていた場合でも、遺言執行者の存在を知らなければ善意ということになります。

もっとも、遺言の存在を知った場合には、通常は第三者も調査をすることが多いようには思われます。

また、この第三者保護規定では、「善意」とだけ規定されていますので、無過失までは求められていません。

そのため、第三者が遺言者の有無について調査などする必要はありませんし、少し調べればわかったという場合であっても、善意であれば保護されることになります。

 


本件では

本件では、土地の購入者のCさんが善意かどうかはわかりませんが、第三者は通常は遺言執行者の存在を知らないですから、CさんがBさんから話を聞いていたといった事情がない限りは、善意となる場合がほとんどでしょう。


 

第三者が善意だった場合

第三者が善意だとしても、直ちに当該遺産が第三者のものになるわけではありません。

平成30年の民法改正により、法定相続分を超える権利取得部分については対抗要件を取得する必要があるとされておりますので、動産であれば引渡し、不動産であれば登記といった対抗要件を備えることによってはじめて確定的に所有権を取得できることになるのです。

本件で言えば、Cさんと相談者さんは、二重譲渡をされたような状態に置かれていることになり、どちらかを備えたほうが駐車場の所有権を得ることになります。

なお、相談者さんが事実婚ではなく法律上の配偶者の場合には、法定相続分が2分の1ありますので、相談者さんは登記がなくても駐車場の2分の1については、Cさんに対抗することができます。

 

 

事後処理

Cさんが駐車場を取得できなかった場合や、Cさんは取得できるとしても相談者さんと争いたくないという場合には、遺言執行者がいることを知って処分をしたBさんに対して売買契約を解除し売却代金の返還を求めるなどして、あと処理をすることになります。

 

 

 

まとめ

弁護士相続においては、相続人の一人が遺産を勝手に処分してしまったり、預貯金を引き出すなどすることがしばしばあります。

このような場合には、第三者が関わってきたり、法的な関係性が複雑になるなどするため、当事者間では容易に解決できないことが多いといえます。

もしそのような事態に至った場合には、どのような解決を目指すべきか、法律の専門家である弁護士にまず相談をしてください。

 

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