家政婦や介護スタッフに全財産を残せる?【弁護士解説】

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会 

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

介護のイメージイラスト高齢になると、家政婦さんや介護施設のスタッフさんなど、普段から身の回りの世話をしてくれる方に対して感謝の気持を持つことがあります。

相続権を持つ親族が疎遠な場合は、親族よりも、身の回りの世話をしてくれた第三者に全遺産を残すケースも珍しくありません。

このような場合、遺言の効力をめぐって争いとなることがあります。

そこで、以下、実際にメディアに取り上げられた事例をもとに、このような遺言の有効性や問題点について解説します。

 

 

遺言で家政婦へ全遺産を残した事例

遺言書のイメージ画像平成28年1月、家政婦に全財産を残す旨の遺言をめぐる裁判が、テレビなどで話題になりました。

この事案では、資産家であるAさんが平成23年に97歳で死亡した際、「遺産は全て家政婦に渡す」との遺言を残していました。

しかしこれに異議を唱えたAさんの娘2人が、Aさんが残した遺産のほぼ全てである約3000万円を引き出すなどして持ち去りました。

そこで、家政婦はAさん残した遺言をもとに、Aさんの娘たちに対し、持ち去った遺産の返還を求める訴訟を提起しました。

Aさんの夫は、映画関連会社の創業者であり、昭和59年に死去した際、10億円を超える財産をAさんに残していました。

他方で、家政婦は、中学卒業後、九州から上京し、約50年にわたり、住み込みの家政婦としてAさんの世話をしました。働き出した当初は、月給6万円でしたが、昭和59年にAさんの夫が死亡して以降は、無給でAさんの世話をしていました。

Aさんの娘たちは、「母は高齢で判断能力が衰えており、遺言は無効だ」と主張していました。そのうえ、家政婦がAさんの生前、Aさんの財産を着服したとして、約6000万円を支払えとの反訴も提起していました。

報道によると、娘たちは、自分たちを差し置いて家政婦に遺産を渡そうとするはずが無いと主張していたようです。

裁判所の判断

しかし、裁判所は、Aさんの生前、娘2人が海外に移住する名目で3000万円をAさんから援助してもらった際、「無心はこれが最後」とする念書を書いていたことなどに着目し、無心を繰り返すだけの娘たちに対し、50年以上Aさんに付き添い、身の回りの世話をしてきた家政婦に遺産を残したいとAさんが思うのは不自然なことではないと判断しました。

他方で、娘たちが家政婦に請求した6000万円の支払いについては、着服を推認すらできないとして退けました。

 

 

遺言能力とは?

解説する男性のイメージイラスト遺言が有効なものとして成立するには、いくつかの要件をみたす必要があります。

今回は、Aさんの遺言能力が問題となりました。

Aさんの事案では、裁判所はAさんに遺言能力があると判断しましたが、

高齢で認知症を患っているなどの事情がある場合は、この遺言能力が否定されてしまう可能性があります。

そうすると、せっかく遺言が残されていても、それは法的には意味を持たないものとなり、遺言はないものとして、相続人が遺産分割手続を進めます。

今回の事案では、遺言により財産を残された家政婦は、相続人ではありませんので、もし遺言能力が否定されてしまえば、Aさんの財産を1円も受け取ることができませんでした。

遺言能力について、詳しくはこちらをご覧ください。

この事案のように、遺言の有効無効をめぐるトラブルには、専門的知識を要します。

遺言のことでお困りの方は、ぜひ一度、相続専門の弁護士にご相談ください。

 

 

相続人の権利はどうなる?〜遺留分の問題〜

相続人以外への遺言が有効な場合、相続人は一切、遺産をもらえないのでしょうか。

このような場合、一定の相続人には、遺産の一定の割合を確保するための制度があります。

この一定の割合を遺留分といい、この遺留分を請求することを遺留分侵害額請求といいます。

遺留分については、下表のとおり、ケースによって異なります。

 

ケース 遺留分の割合
直系尊属のみが相続人の場合 遺産の3分の1
その他の場合※ 遺産の2分の1

※その他の場合は具体的には次のとおりです。

  • ・直系卑属のみ(例:被相続人の子供)
  • ・直系卑属と配偶者(例:被相続人の子供と妻)
  • ・直系尊属と配偶者(例:被相続人の父と妻)
  • ・配偶者のみ(例:被相続人の妻)

上記の事例(遺留分権利者が子供)の場合、遺留分の割合は遺産の2分の1となります。

 

遺留分の算出

具体的な遺留分の算出は、上記の割合に法定相続分の割合を乗じて行います。

法定相続分について、くわしくはこちらのページをご覧ください。

上記の事例は、子供が二人です。

仮に、その他の相続人がいなかった場合、具体的な遺留分の割合は4分の1となります

電卓遺留分 = 2分の1 × 2分の1 = 4分の1

したがって、この事案では、遺言が有効だったとしても、基本的に、子どもはそれぞれ、4分の1の遺留分を求めることが可能となります。

遺留分は、複雑でわかりにくい制度です。

遺留分については、こちらのページでわかりやすく解説しているので、ぜひ御覧ください。

 

 

まとめ

弁護士と税理士以上、相続人以外の第三者に遺産を全部残す場合について、法的問題点やポイントを解説しましたが、如何だったでしょうか。

このような事案では、遺言の有効性や遺留分の請求の可否について、適切に判断しなければなりません。

しかし、これらについて、適切に解決するためには、相続法に関する専門知識やノウハウが必要です。

また、具体的な状況によって取るべき戦略は異なってくるため、可能であれば、相続に精通した弁護士に助言を求め、適切な解決となるよう注意すべきです。

当事務所の相続対策チームは、最新の相続法・裁判例を踏まえ、親身になって解決方法をご提案いたします。

当事務所のご相談の流れについてはこちらのページを御覧ください。

 

 

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会 

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

専門領域 / 個人分野:家事事件 法人分野:労働問題  

実績紹介 / 相続の相談件数年間285件(2019年実績)を誇るデイライト法

律事務所の代表弁護士。家事事件に関して、弁護士や市民向けのセミナー講

師としても活動。KBCアサデス、RKB今日感テレビ等多数のメディアにおい

て家事事件での取材実績がある。「弁護士プロフェッショナル」等の書籍を

執筆。

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