遺言は必ず印鑑が必要?【弁護士が解説】

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会 

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

遺言とは

書く遺言とは、一般には、被相続人となる者が自らの死後のために残す文章や言葉を言います。

法律上、遺言の効果を発生させる場合、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならないと定められています(民法967条)。

遺言書の種類や書き方について、詳しくはこちらのページをご覧ください。

そして、世間一般の人が「遺言書」と聞くと、通常、イメージされるのは自筆証書遺言です。

この自筆証書遺言について、法律では、内容を自書する他に、押印が必要と定められています(民法968条1項)。

では、いかなる場合にも、「印鑑」が必要となるでしょうか。

すなわち、印鑑が押印されていない遺言書は、絶対的に無効となるか、解説します。

 

 

指印の遺言書は無効?

指印は、指の先に墨や朱肉等をつけて押捺されたものです。

これは、いわゆる「印鑑」とは異なります。

そのため、遺言の効力が発生しないのではないかが問題となります。

この点について、裁判例は、次のように判示しています。

 

判例 指印でも法的には有効とした裁判例

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもって足りるものと解するのが相当である。

【最判平元.2.16】

裁判上記の最高裁の判例からすれば、指印でも法的には有効と考えられます。

ただし、指印の場合、その指印が遺言者本人のものかが争いとなることがあります。

そのため、トラブル防止の観点からは、印鑑(できれば実印)が望ましいと考えられます。

 

 

花押の遺言書は無効?

奈良時代花押とは、奈良時代から存在する、自らの署名の字体を崩し、次第に抽象化・象形化していったもので、文書が真正であること(自分がその文書の内容を自分の意思に基づいて書きましたよ、ということ)を示すための記号・符号のことを言います。

指印がよいのであれば、花押の遺言書も有効になるとも思えます。

しかし、この点について、最高裁は、以下のように判示し、無効としました。

 

判例 花押を無効とした裁判例

民法968条1項が自筆証書遺言の方式として・・・押印をも要するとした趣旨は、遺言の全文などの自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるというわが国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ(最高裁平成元年2月16日第一小法廷判決参照)、わが国において印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存在するものとは認めがたい。
以上によれば、花押を書くことは、印象による押印と同視することはできず・・・要件を満たさない」

【最判平28.6.3】

なお、原審である、福岡高裁那覇支部は、花押も民法968条1項の押印の要件を満たすと判断していました。

すなわち、花押は、文書の作成の真正を担保する役割を担い、印章としての役割も認められており、花押を用いることによって遺言者の同一性及び真意の確保が妨げられるとはいえないことに加え、本件で用いられた花押の形状などを合わせて考えると、本件の遺言書における真意の確保に欠けるとはいえない、としたのです。

裁判所原審がいうように、たしかに本件の花押であれば、被相続人本人がその真意に基づいて作成した文書だと実質的にはいうことができそうです。そうすると、花押であっても最高裁の上記理由付けの前半における「遺言者の同一性及び真意を確保する」ということには反しないことになります。

したがって、最高裁としては、印章(印鑑)とは異なり、重要な文書の最後に花押を書くというような習慣は日本にはないということを理由としており、実質として真正な文書といえるかというよりは、形式として花押がどういう役割を果たしているかという点を問題にしているようです。

このように、遺言書の有効性の判断に当たっては、最高裁は今後も形式面を厳格に判断していくものと考えられます。

 

 

遺言書を適切に作成するためには

遺言書は、遺言者が自らの想いを次世代につなぐための大切な手段です。

しかし、法律では、遺言書の方式が厳格に規定されています。

そのため、方式不備の場合、遺言が無効となって、遺言者の願いを叶えることができなくなってしまいます。

このようなトラブルを回避するために、遺言書の作成にあたっては、信頼できる弁護士にご相談の上、慎重に進めていかられることを強くお勧めいたします。

また、可能であれば、相続問題を専門として扱う経験豊富な弁護士に相談されるのが望ましいと考えられます。

当事務所の相続対策チームは、相続問題に注力する弁護士、税理士等で構成されるチームであり、親身になって解決方法をご提案いたします。

当事務所のご相談の流れについてはこちらのページを御覧ください。

 

 

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会 

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

専門領域 / 個人分野:家事事件 法人分野:労働問題  

実績紹介 / 相続の相談件数年間285件(2019年実績)を誇るデイライト法

律事務所の代表弁護士。家事事件に関して、弁護士や市民向けのセミナー講

師としても活動。KBCアサデス、RKB今日感テレビ等多数のメディアにおい

て家事事件での取材実績がある。「弁護士プロフェッショナル」等の書籍を

執筆。

弁護士コラム一覧

なぜ弁護士に相談すべき?