相続放棄の手続きは、借金の債権者から強制的に取り消される?

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会 

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

相続放棄

借金がある私が相続放棄をすると、取り消されてしまうのでしょうか?

先日、資産のある母が死亡したため、相続放棄をしました。

私には借金があるのですが、母の資産を充てにして返済を期待していたようで、相続放棄の取消しを主張されています。

借金がある私が相続放棄をすると、取り消されてしまうのでしょうか。

 

 

弁護士の回答

相続放棄が取り消されることはありません。

 

相続するか放棄するかを他人が強制できるか

相続人の債権者は、相続人の財産だけでは債権全額の弁済を受けるには足りない場合、被相続人の財産からの弁済を期待することになります。

そうすると、相続放棄をした結果として、債務者の財産(責任財産)が減少し、債権者にとっては債権の回収が困難になってしまいます。

しかし、以下のような判例では、相続放棄のような身分行為は詐害行為取消権の行使の対象にはならず、続人が相続放棄するか、承認するかは、相続人の自由意思に委ねられているので、他人の意思で相続するか放棄するかを強制させることはできないとしました。

判例 他人の意思で相続するか放棄するかを強制させることはできないとした裁判例

「相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。
なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。
また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。」

【参照:最判昭和49年9月20日】

ポイントしたがって、債権者により、債務者の相続放棄を取消すことはできません。

上記のように、相続人が相続放棄するか、承認するかは、相続人の自由意思に委ねられていますので、このような場合における相続放棄の取消し(詐害行為取消し)ができるとすれば、相続承認を強制する結果となり、相続放棄の性質からも妥当ではありません。

相続放棄について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

被相続人が借金をしている場合

逆に、被相続人が多額の借財を負っており、債権者が相続人の資産を充てにしている場合もあります。

そのような場合に相続人が相続放棄をしたとしても、被相続人の債権者により取り消されることはありません。

相続債権者は、相続人の全員が相続放棄をしても、被相続人の財産は「相続財産」としての法人格を与えられる結果(民法951条)、その財産の清算として弁済を受けることが可能ですから、債権の責任財産が流出する事態とはならず、その限度で、相続放棄が債権者の利益を害する行為となる余地はありません。

もっとも、債権者としては、被相続人の財産だけでは債権全額の弁済を受けるには足りない場合、相続として予定されている者が相続放棄をすれば、相続債権者の期待は裏切られることになります。

弁護士しかし、その場合であっても、相続人が相続放棄をするか、承認するかの判断は相続人の自由意思に委ねられることになりますので、債権者は相続人の相続放棄を取り消すことはできず、債務を負っている相続人が相続放棄をした場合と同様の結論となります。

親の借金を引き継ぎたくない時の対応について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

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執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会 

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

専門領域 / 個人分野:家事事件 法人分野:労働問題  

実績紹介 / 相続の相談件数年間285件(2019年実績)を誇るデイライト法

律事務所の代表弁護士。家事事件に関して、弁護士や市民向けのセミナー講

師としても活動。KBCアサデス、RKB今日感テレビ等多数のメディアにおい

て家事事件での取材実績がある。「弁護士プロフェッショナル」等の書籍を

執筆。


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