死亡した夫の代わりに損害賠償請求をすることはできますか?

妻Aさんの夫が交通事故によって亡くなりました。
妻Aさんは、交通事故の加害者に対して夫が死亡したことについての損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。
基本的な考え方として、被相続人の一身に専属したものは、相続で引き継ぐことはありません。
交通事故で夫が亡くなった場合は、妻が相続する権利の中に夫の一身専属的権利は含まれていません。
そのため、交通事故で夫が亡くなった場合、妻は、死亡した夫の代わりに損害賠償請求を行うことが可能といえます。
基本的な考え方
民法第896条は、「相続人は、相続開始の日から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない。」と規定しています。
そのため、相続人は、被相続人が亡くなった日から、被相続人の一切の財産・債務等を引き継ぐことになりますが、被相続人の一身に専属したもの(一身専属的権利)については、相続で引き継ぐことはありません。
一身専属権とは
一身専属的権利は、夫婦間の婚姻費用分担金請求権や扶養請求権のように、他人である相続人が相続して権利行使するのに適さない権利のことを指します(婚姻費用分担金請求権や扶養請求権について、すでに権利が発生していた部分は、通常の債権として相続の対象になります。)。
妻Aさんの権利には一身専属的権利が含まれるか?
相続人(妻Aさん)は、加害者に対し、夫の死亡による逸失利益、慰謝料、車の修理代等の損害賠償請求をすることが可能です。
相続人の権利 | 被相続人の一身専属的権利 | 損害賠償請求 |
---|---|---|
死亡による逸失利益、慰謝料、車の修理代等の損害賠償請求 | 含まれない | 可能 |
慰謝料請求権以外の権利

生命侵害の場合、被害者が生存していたならば得られたであろう利益である逸失利益についての損害賠償請求権が発生し、これが相続されるかについては議論があるところです。
上記の死亡による逸失利益について、死亡によってはじめて生ずべき損害を既に生前において被っていたと考えなければ相続できないという論理的な困難はありますが、判例は、致死傷と死亡との間に観念上時間的感覚があり、その時に被害者に損害賠償請求権が発生し、被害者の死亡によってそれが相続されるとして相続を認めています(大判昭和16年12月27日)。
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慰謝料請求権
慰謝料請求権について、判例は、当初、被相続人が生前に請求の意思表示をしたときは相続を認め、意思表示をしなかったときは相続を否定してきました。
しかし、その結果、被相続人が死亡直前に「残念残念」と言った場合には、「残念残念」との発言が請求の意思表示にあたるとして慰謝料請求権の相続が認められた判例がある一方、被相続人が死亡直前に「助けてくれ」と言っただけでは請求の意思表示をしたことにはならないとされた裁判例が出るなど、死亡直前に何を言ったかという偶然の事実が、慰謝料請求権の相続の可否を決めるという不合理な結果が生じるようになりました。
そこで、現在は、被害者に機会を与えれば必ず慰謝料の請求をしたであろうと思われる場合には当然に慰謝料の相続を認めるとの立場が取られるようになりました(最大判昭和42年11月1日民衆21巻9号2249頁)。
以上から、被害者の相続人は、加害者に対し、死亡による逸失利益や慰謝料も請求することが可能といえます。
まとめ交通事故で夫が亡くなった場合に妻が相続する権利の中には、夫の一身専属的権利は含まれていません。
そのため、交通事故で夫が亡くなった場合、妻は、死亡した夫の代わりに損害賠償請求を行うことが可能といえます。
なお、妻は、夫から相続した権利のみではなく、固有の権利として慰謝料請求を行うことも可能です。
相続問題でお困りの方は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。
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弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 個人分野:家事事件 法人分野:労働問題
実績紹介 / 相続の相談件数年間285件(2019年実績)を誇るデイライト法
律事務所の代表弁護士。家事事件に関して、弁護士や市民向けのセミナー講
師としても活動。KBCアサデス、RKB今日感テレビ等多数のメディアにおい
て家事事件での取材実績がある。「弁護士プロフェッショナル」等の書籍を
執筆。
相続発生後のお悩み解決法

