遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

問題点・趣旨

裁判所遺産の分割をしない限り、遺産分割の対象財産は共有ないし準共有状態にあります。

そのため、相続人の一人が勝手に処分したりなどした場合には、共有持分権を侵害したものとして、その処分をした相続人に対し、他の相続人が不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求をして解決を図ってきました。

しかしながら、その上記のような損害賠償請求等のためには訴訟をしなくてはならず、訴訟が終了するまで長い期間を要したり、勝手に引き出した相続人がすでに金銭を費消していて、現実には回収ができないなどの問題がありました。

 

 

内容

要件

① 処分された財産(処分財産)が、相続開始時に被相続人の遺産に属していたこと
② 財産が処分されたこと
③ 共同相続人全員が、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることに同意していること

※②の財産処分が、共同相続人の一人又は数人によってなされている場合には、その処分をした共同相続人の同意は不要です。

①の要件について

男性①については、「相続開始時に被相続人の遺産に属していたこと」が必要ですから、相続開始前に被相続人の遺産を勝手に処分してしまったような場合には、この規定の適用はありません。

そのため、被相続人の財産管理をしていた子どもが、被相続人の生前からその預貯金を勝手に引き出して使っていて、被相続人の死亡後も引き出して使っていたような場合には、死亡後の引出のみがこの規定の対象になり、生前の引出については、引き出していた人が応じない限りは別途訴訟を起こさないと解決できないということになります。

②、③の要件について

言い争い②については、財産が処分されたことが必要ですが、誰が処分したかを特定する必要はありません。また、共同相続人に限りませんので、第三者が処分した場合も含みます。

もっとも、③との要件との関係で、処分したのが第三者の場合には共同相続人全員の同意が必要となりますが、処分したのが共同相続人の一人又は数人によってなされた場合には、その処分した共同相続人の同意は不要となります。

例えば、被相続人が亡くなり、A、B、Cが共同相続人である場合で、Cが勝手に被相続人の預貯金を引き出していたときは、その引き出されていた預貯金を遺産分割の対象に含めるかの同意を得るにあたって、処分したCの同意は不要ということになります。

 

効果

ポイントのマーク要件を満たした場合の効果は、「当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなす」ことです。

遺産として存在するかどうかというのは、遺産分割の審判の際に裁判所がその財産を含めて遺産の分割の判断ができるかというところに影響してきます。

この点は、わかりづらいところなので、事例で説明しましょう。

事例

被相続人が死亡し、配偶者A、子供のBおよびCが相続人となった。遺産は、預貯金500万円、株式500万円、不動産が1000万円であった。

通帳しかし、Cは生前から被相続人の財産管理をしており、通帳や暗証番号を知っていたので、被相続人の死亡後すぐに500万円をATMを使って自分の口座に振り込んでいた。なお、Aは被相続人と一緒に暮らしてきた不動産を取得したいと思っている。

本事例において、Cが500万円は財産管理などの面倒を見てきた自分がもらって当然のものであるから、不動産を売却して1500万円の4分の1をもらうのだと言って聞かない。

このような場合、AやBはどうしたら良いでしょうか。

【現行法の場合】
現行法では、遺産分割の対象になるのは、現時点で残っている遺産だけとなっています。そのため、被相続人の死亡時に遺産に属している財産があったとしても、その後にその財産が処分されてその性質が異なった場合には、遺産から逸出したものとして扱われることになります。例外的に、相続人全員の同意があれば、逸出した財産も遺産分割の対象として含めることが可能ですが、処分した人は遺産分割の対象に含めることに同意するとは考えにくいでしょう。
結論として、遺産分割の審判となった場合には、Cが自分の口座に振り込んでしまった預貯金500万円は全員の同意がない限り遺産分割の対象としては扱われず、Cが同意をしていないので、株式500万円および不動産1000万円だけが遺産分割の対象となります。そのため、合計1500万円の財産をAが相続分2分の1の750万円分、BとCが、375万円分を取得することになるのです。そうすると、Aが不動産を取得したいと思った場合、1000万円の財産を取得することになるので、BとCに代償金として125万円ずつ支払わなければならなくなります。
次に、Cの処分した500万円についてはどうなるかといえば、500万円についてはAやBが遺産分割の審判とは別に、不当利得返還請求ないし不法行為に基づく損害賠償請求の民事訴訟を起こして、Cから回収することになるのです。しかし、訴訟をするには、弁護士が関わらないと困難でしょうから、AやBにとっては大きな負担となるといえます。
もっとも、このような結論は誰が見ても不当なものでしょう。もしCが預貯金を勝手に処分していなければ、遺産分割の審判では、Aが不動産を取得し、BやCが預貯金か株式を取得するということで、解決していたはずです。それにもかかわらず、Cが処分したことで、AやBは民事訴訟まで提起せざるを得ず、本来は不要な時間と費用をかけなくてはいけなくなるのです。

【改正法の場合】
では、改正法の場合には、どうでしょうか。改正案では、Cが処分した預貯金をC以外の共同相続人の同意があれば、遺産として存在するものとみなすことができます。つまり、AおよびBの同意があれば、裁判所は遺産分割審判において、被相続人の預貯金500万円があるという前提で審判をできるのです。
そうすると、裁判所としては、Aが不動産を取得、Bが株式500万円を取得、Cが預貯金500万円を取得という審判を出すことができることになり、AやBは無駄に民事訴訟を提起することなく、妥当な結論に達することができるのです。

【Cが株式500万円も処分していた場合】
仮に、上記事例において、Cが預貯金のみならず、株式500万円も勝手に処分していた場合はどうなるのでしょうか。その場合には、預貯金も株式も遺産して存在しているとみなして、審判において、代償金を支払えという審判となるものと思われます。
つまり、Aが不動産を取得する、Cは預貯金および株式を取得する、CはBに代償金500万円を支払え、という内容ということです。
もっとも、このような審判となるかは疑問もあります。なぜなら、Cからお金を回収できないリスクをBだけが負うことになるからです。現行法では、Bは125万円を回収できないリスクを負っていたのが、改正後にはAの負うべき回収リスクも含めて負わせられるというのは奇妙です。
そのため、この場合には裁判所が審判を出す際には、現行法との表側を合わせた形での審判が求められる可能性もあります。

 

 

問題点

六法全書上記の事例で見ていただいたように、改正によってAやBの負担が減る事案があるのは間違いありません。

もっとも、この改正によってすべてが解決するわけではなく、不当利得返還請求をするという選択肢もあり得ますので、改正点は選択肢の一つとして考えるべきものだと認識した方が良いでしょう。

まず、被相続人の生前に相続人が処分行為を行なっていたことについては、改正案では一切手当がないため、結局は民事訴訟を起こさざるを得ない場合があるということです。

前述のとおり、改正案では、①処分された財産(処分財産)が、相続開始時に被相続人の遺産に属していたこと、という要件がありますから、被相続人が死亡する前に認知症などで財産管理ができないことをいいことに、相続人の一人が勝手に預貯金を使い込んでいたという事例は少なくありません。

そのような場合に対応する規定は本改正では設けられていないことに注意が必要です。

また、処分行為を行った人が明確であれば、この改正案は意味がありますが、処分行為を行なったのが誰であるかに争いがある場合には、結局は遺産分割とは別に遺産に属することの確認訴訟を提起せざるを得ない場合も生じるでしょう。

そうすると、結局は、負担という点では、不当利得返還請求を民事訴訟で行なった場合と大差はないのではないかという疑問も生じます。

裁判所そのため、生前の勝手な処分も含めて責任追及する場合など、生前死後両方の処分を対象にして不当利得返還請求をした方が解決として適切な場合もあり得るところです。

そのため、遺産分割や遺産の確認、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求など、様々な選択肢からどの解決が望ましいかを判断することが必要になってくるところです。

 

 

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