遺留分とは、相続財産の一定割合について、一定の相続人に確保するために設けられた制度の事を言います。
遺留分は、相続人にとって、最低限の遺産を確保するための大切な制度です。
しかし、相続法の条文は難解であり、一般の方が理解するのは難しいという問題があります。
そこで、このページでは、相続法に精通した弁護士が、遺留分の複雑な仕組みについて、わかりやすく解説いたします。
目次
遺留分とは
遺留分とは、被相続人(「亡くなった方」のこと)の相続財産について、一定の割合の相続財産を一定の相続人に残すための制度を言います。
相続財産は被相続人のものですから、本来、被相続人は自己の財産を自由に処分できます。
自分の財産をどのように管理・処分するかはその人の自由だからです。
しかし、相続財産は相続人の生活の保障となる場合もあり、これを全く自由に許すと、被相続人の財産に依存して生活していた家族は路頭に迷うことになりかねません。
たとえば、赤の他人に全財産を与えるなどという遺言がなされた場合、残された妻子はどうなるのでしょうか。
そこで、相続財産の一定割合を一定の相続人に確保するために設けられたのが、遺留分の制度です。
遺留分を請求できる人(遺留分権利者)とは
遺留分を請求できる人のことを「遺留分権利者」といいます。
遺留分権利者は、次の方を言います(民法1042条)。
②子(または代襲相続人※)
③直系尊属※
※代襲相続人とは
代襲相続とは、被相続人の子供・兄弟姉妹が相続開始前に死亡したときや相続欠格・排除によって相続権を失った場合(「代襲原因」といいます。)、その子供が相続人となることをいいます。
ただし、上述したように兄弟姉妹にはそもそも遺留分がありません。
したがって、遺留分制度において、代襲相続人として遺留分権利者となることができる者は、「被相続人の孫」と考えておけばいいでしょう。
※直系尊属とは
「直系」とは、一方が他方の子孫にあたる関係をいいます。
「尊属」とは、自分よりも前の世代をいいます。
したがって、父母や祖父母などが該当します。また、養父母も含まれます。配偶者の父母・祖父母は含まれません。
注意が必要なのは、兄弟姉妹には遺留分がないということです。


胎児については、お腹の中にいる間は遺留分権利者となりませんが、生まれてくれば子どもとしての遺留分を持ちます(民法886条)。
遺留分の割合
総体的遺留分の割合
総体的遺留分の割合とは、遺留分権利者全体に残されるべき相続財産全体に対する割合をいいます。
総体的遺留分の割合は次のとおりです。
表1【総体的遺留分】
ケース | 遺留分の割合 |
---|---|
直系尊属のみが相続人である場合 | 被相続人の財産の3分の1 |
その他の場合※ | 被相続人の財産の2分の1 |
※その他の場合とは具体的には次の場合です。
・直系卑属のみ 例 被相続人の子供
・直系卑属と配偶者 例 被相続人の子供と妻
・直系尊属と配偶者 例 被相続人の父と妻
・配偶者のみ 例 被相続人の妻
個別的遺留分の割合
個別的遺留分の割合は、総体的遺留分の割合に法定相続分の割合を乗じて算出します。
個別的遺留分の割合の算定式
個別的遺留分の割合 = 総体的遺留分の割合 × 法定相続分の割合
法定相続分は、相続人が誰であるかによって民法により決められています。
法定相続分をまとめると次の表のとおりです。
表2【法定相続分】
相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者と子供 | 各2分の1 |
配属者と直系尊属 | 配偶者3分の2、直系尊属3分の1 |
配属者と兄弟姉妹 | 配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1 |
配偶者のみ又は子供のみ | 配偶者又は子供がすべて |
直系尊属のみ又は兄弟姉妹のみ | 直系尊属又は兄弟姉妹がすべて |
上記の結果を表にまとめると、遺留分は下表のとおりとなります。
相続人 | 総体的遺留分
(遺留分権利者全体の遺留分) |
個別的遺留分(各々の遺留分) | |||
---|---|---|---|---|---|
配偶者 | 子供※ | 親※ | 兄弟姉妹 | ||
①配偶者のみ | 2分の1 | 2分の1 | - | - | - |
②子供のみ | 2分の1 | - | 2分の1 | - | - |
③親のみ | 3分の1 | - | - | 3分の1 | - |
④配偶者と子供 | 2分の1 | 4分の1 | 4分の1 | - | - |
⑤配偶者と親 | 2分の1 | 3分の1 | - | 6分の1 | - |
⑥配偶者と兄弟姉妹 | 2分の1 | 2分の1 | - | - | なし |
※子供や親が複数人の場合はその人数で割ったものが個別的遺留分となります。
具体例 相続人が「子供のみ」だが、子供が3人いる場合
個別的遺留分は2分の1(上表2参照)
2分の1 ÷ 3(子供の人数)= 6分の1
回答 したがって、子供1人の遺留分は6分の1

総体的遺留分は2分の1となります(表1)。
相続人が配偶者のみの場合、法定相続分は「相続財産すべて」となります(表2)。
したがって、個別的遺留分は2分の1となります(表3)。

総体的遺留分は2分の1となります(表1)。
相続人が子供のみの場合、法定相続分は「相続財産すべて」となります(表2)。
したがって、個別的遺留分は2分の1となります(表3)。

総体的遺留分は3分の1となります(表1)。
相続人が親のみの場合、法定相続分は「相続財産すべて」となります(表2)。
したがって、個別的遺留分は3分の1となります(表3)。

総体的遺留分は2分の1となります(表1)。
■配偶者の個別的遺留分
相続人が「配偶者と子供」の場合、法定相続分は「2分の1」となります(表2)。
したがって、次の計算式より、個別的遺留分は4分の1となります(表3)。
2分1(総体的遺留分)× 2分の1(法定相続分)= 4分の1
■子供の個別的遺留分
相続人が「配偶者と子供」の場合、法定相続分は「2分の1」となります(表2)。
したがって、次の計算式より、個別的遺留分は4分の1となります(表3)。
2分1(総体的遺留分)× 2分の1(法定相続分)= 4分の1

総体的遺留分は2分の1となります(表1)。
■配偶者の個別的遺留分
相続人が「配偶者と直系尊属(親)」の場合、配偶者の法定相続分は「3分の2」となります(表2)。
したがって、次の計算式より、個別的遺留分は3分の1となります(表3)。
2分1(総体的遺留分)× 3分の2(法定相続分)= 6分の2 ⇒ 3分の1
■親の個別的遺留分
相続人が「配偶者と直系尊属(親)」の場合、親の法定相続分は「3分の1」となります(表2)。
したがって、次の計算式より、個別的遺留分は6分の1となります(表3)。
2分1(総体的遺留分)× 3分の1(法定相続分)= 6分の1

総体的遺留分は2分の1となります(表1)。
■配偶者の個別的遺留分
相続人が「配偶者と兄弟姉妹」の場合は間違えやすいので注意が必要です。
すなわち、配偶者の法定相続分は「4分の3」となります(表2)。
とすると、次の計算式より、個別的遺留分は8分の3となりそうです(表3)。
2分1(総体的遺留分)× 4分の3(法定相続分)= 8分の3
しかし、上述したとおり、兄弟姉妹には遺留分がありません。
これは、兄弟姉妹は通常、配偶者・子供・親と比較して、被相続人から遠い存在であるため遺留分を認める必要がないと考えられているからです。
このような法の趣旨から、配偶者と兄弟姉妹が相続人となるときは、2分の1の遺留分はすべて配偶者にいくと考えます。
したがって、個別的遺留分は2分の1となります(表3)。
■兄弟姉妹の個別的遺留分
上述したとおり、兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分の計算シミュレーター

遺留分は一般の方が自分で計算するのは大変です。
下記は、当事務所が遺留分の概算をシミュレーションできる計算機です。
ご入力いただければ、遺留分の概算が算出可能ですので、ご参考にされてください。
以下の中から該当する項目にご入力ください。不明なものは空欄で結構です。
子 | |
親 | |
兄弟姉妹 |
配偶者 | |
子 | |
親 | |
兄弟姉妹 |
※複数名の場合は1名の金額を表示しております
このシミュレーターは、簡易迅速に遺留分を算定することを目的としているため、正確ではありません。
また、このシミュレーターには下記のような問題点があります。そのため、あくまで参考程度にとどめて、正確な相続分の額については相続問題に精通した弁護士にご相談されるようにしてください。
相続においては、遺産の範囲を調査し、かつ、適切に評価しなければなりません。特に遺産に不動産や株式がある場合、評価が難しく専門家の意見が重要となります。
例えば、被相続人(亡くなった方)が生前贈与していた場合は遺産額に加算する可能性がありますが、これらの諸事情は考慮しておりません。遺留分算定の詳細な解説はこちらのページをご覧ください。
当事務所には、相続問題に注力する弁護士と税理士のみで構成される相続対策チームがあり、相続問題に直面されている方々を強力にサポートしています。遠方の方については、LINEなどを利用したオンライン相談も可能です。相続問題でお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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遺留分算定の基礎となる財産額
遺留分算定の基礎となる財産額について、法律は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額」と規定しています(民法1043条1項)。
したがって、計算式は次のとおりとなります。
遺留分算定の基礎となる財産額の算定式
遺留分算定の基礎となる財産額 =(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+(贈与財産の価額)-(相続債務の全額)
贈与財産を加算する理由は、もし、加算しないこととすると、被相続人が死亡する直前に所有財産のほとんどを他人に贈与した場合、遺留分制度の目的が達成できなくなるからです。
また、相続債務を控除する理由は、遺留分制度は相続人が現実に取得する価額を基礎として、遺留分権利者に一定割合を確保する制度であるという理解に基づきます。
相続開始時の財産について

条件付権利や存続期間の不確定な権利であっても、遺留分算定の基礎となる財産に含まれますが、その具体的な価額については、家裁が選任した鑑定人の評価に従って定められます(民法1043条2項)。
贈与財産についての注意点
遺留分算定の基礎となる財産額の計算において、算入される贈与財産については、贈与の対象者が誰であったかによって時期が限定されています。
贈与の対象者 | 算入する内容 |
---|---|
相続人以外の者に対する贈与 | 原則として、相続開始前の1年間にされたものに限る 例外:当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前より過去にされたものであっても算入 |
相続人に対する贈与 | 特別受益※に該当する贈与で、かつ、原則として、相続開始前の10年間にされたものに限る 例外:当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、10年前より過去にされたものであっても算入 |
※特別受益について、詳しくはこちらのページをご覧ください。
ポイント
従来、相続人に対する特別受益については、時期の制限がなく、原則として、遺留分算定の基礎となる財産にすべて加算していました。
しかし、相続法の改正によって、原則として、相続開始前の10年間になされた贈与に限定されることとなりました(2019年7月1日施行)。

遺留分を侵害する認識があればよく、損害を与えるという加害の意図や誰が遺留分権利者であるかを知っている必要まではないと考えられます。
しかし、被相続人が財産の大部分を第三者に贈与しても、どの程度寿命があるかわからないのが通常です。
贈与の時点で遺留分を侵害していても、その後、財産が増加するだろうと考えている場合もあります。
したがって、判例上、遺留分を侵害する認識については、贈与時だけではなく、将来も遺留分の侵害が続くと予見していたことが必要とされています(大判昭和11.6.17)
この要件を満たすのは、高齢で所得が低い被相続人が財産の大部分を贈与したなどの限定された事例であると考えられます。

負担付贈与※の場合、贈与財産の価額は、その価額から負担の価額を控除した額として算入します(民法1045条1項)。
※負担付贈与とは、贈与に受贈者の負担が伴うものです。
例えば、1000万円の不動産を贈与する代わりに、残ローンの 200万円を負担させる契約をいいます。
この場合、算入する贈与額は 800万円となります。
1000万円 - 200万円 = 800万円

不相当な対価でなされた有償行為とは、一応対価はもらっているので、贈与ではないものの、その対価が不適切な場合をいいます。
例えば、2000万円の不動産を100万円で売却する場合です。
このような不相当な行為について、法律は、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす」と規定しています(民法1045条2項)。

例えば、相続人以外の者との贈与契約を相続開始の2年前に締結したが、贈与契約を履行したのは相続開始の1年以内の場合、当該贈与財産を算入すべきかという相談があります。
この場合、贈与契約に着目すれば、相続開始の1年より前なので、算入する必要がないことになるからです。
他方、実際に贈与したのは、相続開始の半年前なので、算入する必要があります。
時期の基準となるのは「履行時」ではなく「契約締結時」です。
したがって、算入する必要はありません。
控除される債務についての注意点
遺留分の基礎となる財産額から控除される相続債務とは、被相続人が負っていた借金などをいいます。
税金や罰金なども相続債務となります。

保証債務については、原則として、控除すべき相続債務に含まれないと考えられます。
通常は主債務者が債務を履行するので、控除する必要はないといえるからです。
もっとも、主債務者の支払能力がなく、求償権の行使による填補の実効性がないような場合、控除すべきと考えられます。
遺留分額の算定方法
遺留分額は、上記の遺留分算定の基礎となる財産額に個別的遺留分の割合を乗じて算定します。
したがって、遺留分額の計算式は、次のとおりとなります。
遺留分額の算定式
遺留分額 = (遺留分算定の基礎となる財産額)×(個別的遺留分の割合)
遺留分侵害額の算定方法
遺留分権利者は、受遺者又は相続人に対して、遺留分侵害額に相当する金銭支払いの請求ができます。
遺留分侵害額の算定方法について、民法は、上述した「遺留分額」から「遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与(特別受益)の価額」及び「第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額」を控除し、これに「被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(遺留分権利者承継債務)の額」を加算して算出することを定めています(1046条2項)。
遺留分侵害額の計算式を簡単に示すと、次のとおりとなります。
遺留分侵害額の算定式
遺留分侵害額 = 遺留分額 -(遺贈又は特別受益の価額)-(遺留分権利者が相続によって得た財産額:寄与分による修正は考慮しない)+(遺留分権利者承継債務の額)
ポイント
遺留分算定の基礎となる財産額の算定において、相続人対する特別受益は、相続開始前の10年間になされたものに限定されています。
しかし、遺留分侵害額を求める計算式においては、「特別受益の価額」を相続開始前の 10年間にされたものに限定せずに加算します。
これまでいくつも算定式が出てきました。
まとめると次のとおりとなります。
遺留分侵害額 = ★遺留分額 -(遺贈又は特別受益の価額)-(遺留分権利者が相続によって得た財産額:寄与分による修正は考慮しない)+(遺留分権利者承継債務の額)
★遺留分額 =(A:遺留分算定の基礎となる財産額)×(B:個別的遺留分の割合)
A:遺留分算定の基礎となる財産額 =(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+(贈与財産の価額)-(相続債務の全額)
B:個別的遺留分の割合 = 総体的遺留分の割合 × 法定相続分の割合
遺留分侵害額の計算は、上記のとおり、やや複雑なため、なれていないと難しいです。
具体例をもとに、検討してみましょう。
具体例 ケース①
先日、夫が死亡し、相続人は妻である私(A)のほか、長男B、長女Cの3人がいます。
夫の遺産は、預貯金の 4000万円だけで、負債が 2000万円ありました。
夫は、亡くなる半年前に、愛人であるDに対し、4000万円を贈与していました。
私と子供たちは、どの程度、遺留分侵害額を請求できますか?
STEP1 遺留分算定の基礎となる財産額の算定
(相続開始時の財産)+(贈与財産の価額)-(相続債務の全額)
相続開始時の財産(4000万円)+ 贈与財産の価額(4000万円)- 相続債務(2000万円)= 6000万円
STEP2 個別的遺留分の割合の算定
上記の表3を参照
- 妻A 2分の1(総体的遺留分の割合)× 2分の1(法定相続分)= 4分の1
- 長男B 2分の1(総体的遺留分の割合)× 4分の1(法定相続分)= 8分の1
- 長女C 2分の1(総体的遺留分の割合)× 4分の1(法定相続分)= 8分の1
STEP3 遺留分額の算定
- 妻A 6000万円 × 4分の1 = 1500万円
- 長男B 6000万円 × 8分の1 = 750万円
- 長女C 6000万円 × 8分の1 = 750万円
STEP4 遺留分侵害額の算定
- 遺留分権利者が相続によって得た額
- 妻A 4000万円 × 2分の1(法定相続分)= 2000万円
- 長男B 4000万円 × 4分の1(法定相続分)= 1000万円
- 長女C 4000万円 × 4分の1(法定相続分)= 1000万円
- 遺留分権利者承継債務の額
- 妻A 2000万円 × 2分の1(法定相続分)= 1000万円
- 長男B 2000万円 × 4分の1(法定相続分)= 500万円
- 長女C 2000万円 × 4分の1(法定相続分)= 500万円
- 各々の遺留分侵害額
- 妻A 1500万円 - 2000万円 + 1000万円 = 500万円
- 長男B 750万円 - 1000万円 + 500万円 = 250万円
- 長女C 750万円 - 1000万円 + 500万円 = 250万円
回答 以上から、妻Aは 500万円、長男Bと長女Cは 250万円を愛人Dに請求できます。
具体例 ケース②
先日、夫が死亡し、相続人は妻である私(A)のほか、長男B、長女Cの3人がいます。
夫の遺産は、預貯金の 4000万円だけで、負債が 2000万円ありました。
夫は、亡くなる半年前に、愛人であるDに対し、4000万円の不動産(マンション)を贈与していました。
私と子供たちは、どの程度、遺留分侵害額を請求できますか?
ケース②は、ケース①と異なり、愛人Dへの贈与が金銭ではなく、不動産となっています。
このような場合、遺留分権利者は、愛人Dに対して、「何を」請求するかが問題となります。
従来、このようなケースでは、遺留分権利者の減殺請求によって、遺贈又は贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者又は受贈者が取得した権利は、その限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するとされていました。
上記の例では、不動産の価額は 4000万円であるところ、相続人らの遺留分侵害額は、妻Aは 500万円、長男Bと長女Cは 250万円なので、妻Aは 8分の1(500万円 ÷ 4000万円)、長男Bと長女Cは 16分の1(250万円 ÷ 4000万円)について、不動産の持ち分の減殺を求めることができます。
しかし、このような不動産の共有状態は、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせることになると批判されていました。
そこで、相続法が改正され、不動産の共有持分を取得するのではなく、遺留分侵害額の請求権の行使によって、金銭債権が発生することになりました(改正法は2019年7月1日施行)。
したがって、上記の場合、ケース①と同様に、妻Aは 500万円、長男Bと長女Cは 250万円を愛人Dに請求できます。
ただし、金銭請求を受けたDが直ちに金銭を準備することができない場合も想定されます。
そこで、裁判所は、受遺者又は受贈者の請求によって、同人らが負担する金銭債務の全部又は一部の支払について、相当の期限を許与することができるという制度が設けられました(民法1047条5項)。
遺留分が問題となるケース
当事務所の相続対策チームには遺留分に関する多くのご相談が寄せられています。
遺留分に関して、特に多い相談内容は夫が愛人に財産を贈与するというケースです。
上記の遺留分侵害額の計算において、具体例としてあげたような事案が典型です。
贈与には、生前贈与と遺贈※の2パターンがあります。※遺贈とは、遺言によって財産を無償で他人に与えることを言います。
問題①夫が愛人に財産を贈与する
このケースは、夫婦仲がうまくいっていない場合に見られる傾向にあります。
夫婦仲がうまくいっていない場合、離婚という選択肢もありますが、妻側が離婚に応じてくれず、法律上離婚が成立しておらず、妻側に相続権があるため、夫が愛人に生前贈与や遺贈という方法で財産を分与します。
いくら夫婦仲がうまくいっていないとはいえ、長年連れ添った妻からすれば、愛人に多くの遺産が行き渡るのは納得できません。
また、子供がいる場合、子供からすると赤の他人に遺産がいってしまうので、当然、納得できないでしょう。
そこで、妻や子供が夫の愛人に対して、遺留分を請求するという問題が生じます。
なお、この事案おける妻や子供たちの遺留分割合は次のとおりとなります。

くわしくは上述の表3をごらんください。

問題②父親が特定の子供にのみ遺産の大部分を残す
次に、ご相談が多いのは、父親が特定の子供にのみ遺産の大部分を残すという事案です。
【介護従事】体が不自由な父親の介護を長年に渡って献身的に行っていた場合
【同居者】 父親と長年同居しており、父親との距離が近い場合
上記のような事案では、他に兄弟がいる場合、その兄弟が不公平感を抱き、トラブルに発展することが多々あります。
本来、子供同士の法定相続分は平等です。例えば、相続人が子供二人の場合、それぞれ2分の1ずつの相続権があります。
にもかかわらず、他の兄弟のみ高額な遺産を受け取り、他の一方の手元にはほとんど残らないとなると、自分だけが不当に扱われていると感じることがあります。
このようにして、優遇された兄弟に対して遺留分を請求するという問題が生じます。
なお、この事案おける子供の遺留分割合は次のとおりとなります。

問題③再婚後の子供に高額な財産を残す
このケースは、子供がいる父親が離婚し、その後、再婚して、再婚相手との間に子供を作った場合に多いご相談です。
離婚しても、子供との関係では父親であることに変わりはありません。
しかし、その子供と疎遠となると、再婚後の子供の方を重視することがあります。
このような事案では、再婚後の子供に多額の遺産を分与し、再婚前の子供に対しては遺産をほとんど残さないという傾向があります。
再婚前の子供として、このような不公平な扱いを受け入れることができず、再婚後の子供に対して遺留分を請求することがあります。
なお、この事案おける子供の遺留分割合は次のとおりとなります。

問題④親に遺産をまったく残さない
このケースは、子供がいない世帯で、夫が妻に遺産のすべてを相続させる場合に多いご相談です。
子供がいない場合、法定相続人は、配偶者と親になります。法定相続分は配偶者が3分の2、親が3分の1です。
法定相続分についてはこちらのページをご覧ください。
このような場合に、夫が親にまったく遺産を残さないのは以下のような理由が考えられます。
②親が裕福である
③妻が病気などの理由で老後の資金が必要である
④妻に対する愛情が深い
上記のうち、②については、親自身が遺留分を請求する必要性が乏しいので、トラブルに発展する可能性は低いと言えます。
しかし、その他については、親として、一定程度の遺産を要求したいと考えることがあります。
なお、この事案おける親の遺留分割合は次のとおりとなります。

親の個別的遺留分割合 ⇒ 6分の1
くわしくは上述の表3をごらんください。
遺留分の請求はいつまで可能か~時効のポイント~
遺留分の侵害額請求は、いつまでもできるわけではないので注意が必要です。
すなわち、法律では、遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。と定めています(民法1048条)。
このように、遺留分の請求には、短期(1年)と長期(10年)の期間制限があります。

1年という短い期間が設けられているのは、相続関係に基づく権利変動については、可能な限り、早く決着をつけることで、法律関係の確定や取引の保護を図ろうとしたものです。
ここで、「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、具体的にどのような場合かが問題となります。
この問題について、裁判例は、単に被相続人の財産の贈与や遺贈があったことを知るだけでは足りず、「贈与の事実及びこれが減殺できるものあることを知った時と解すべき」と判示しています(最二小昭57.11.12)。

短期(1年)については、「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から」という要件が必要ですが、長期(10年)は、この要件がありません。
すなわち、長期(10年)は、もし、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知らなかったとしても、相続開始から10年経てば、遺留分を請求できなくなることを定めたものです。
また、短期(1年)は、消滅時効を定めたものであるのに対し、長期(10年)は除斥期間を定めたものと考えられています。
消滅時効と除斥期間は両者とも期間制限であることは同じですが、時効中断措置を取れるか等で異なります。
消滅時効と除斥期間の違いについては下表をごらんください。
消滅時効 | 除斥期間 | |
---|---|---|
中断措置 | 可能 | 不可 |
停止 | 可能 | 不可 |
援用の要否 | 必要 | 不要 |
期間算定の起算点 | 権利行使が可能となった時点 | 権利発生時点 |
遡及効の有無 | 有 | 無 |
除斥期間を経過した場合
原則として、相続開始時から10年が経過すれば、たとえ、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知らなかったとしても、遺留分を請求することはできません。
しかし、ケースによっては、遺留分の請求が期待できないような状況も考えられます。
このような特別な事情がある場合、その事情が解消されたから6ヶ月以内であれば、遺留分の請求が認められる場合もあります(下記の参考判例参照)。
判例 除斥期間経過後に遺留分減殺請求をした裁判例
この事案は、受遺者が被相続人より、不動産の遺贈を受け、これに対して、相続人らが遺留分減殺請求をしたケースです。
受遺者は遺留分減殺請求権は被相続人の死後 10年を過ぎて行使されたから除斥期間の経過により消滅したなどとして争っていました。
裁判所は、本件遺言は無効であるとの見解が具体的理由付けを含めて専門家の見解として紹介され、相続人全員が無効を前提に遺産分割協議を継続していたなどの事情があったことから、「遺留分減殺請求権の行使を期待できない特段の事情があったといえる」と判示しました。
【仙台高判平27.9.16】
もっとも、被相続人の子が本件遺言につき従前の見解を改め専門家の見解を紹介して有効である旨主張し以後の遺産分割協議の継続を行わない意向を示した時点で、特段の事情も解消されたとして、遺留分減殺請求権行使は同解消時から6か月以上経過後のことであるから同請求権は消滅したとしています。
遺留分の請求方法
遺留分を請求する場合、その相手となるのは遺贈や贈与を受けた人となります。
①遺留分の示談交渉
②遺留分の調停
③遺留分の裁判
以下、それぞれについて特徴やメリット・デメリットを解説します。
①遺留分の示談交渉
これは、裁判所を利用せずに当事者同士で話し合って解決する方法です。
-
メリット裁判所を利用すると、通常は解決までに長期間を要する傾向にあります。
また、裁判所までわざわざ出向かなければならないので労力もかかります。
示談交渉は、うまくいけば、短期間で解決します。
また、裁判所まで行く必要もないので労力もそれほどかかりません。 -
デメリット裁判所が関与しないため、専門知識や経験がないと適切に解決できない可能性があります。
また、相手方が話し合いに応じない場合や交渉が決裂すると解決できません。
示談交渉の場合、相続に詳しい弁護士に相談し、適切なサポートを受けることが重要です。
具体的な状況に応じて、妥当な解決方法を提案してくれたり、弁護士が代理人となって相手と交渉することが可能となります。
また、遺留分の請求は遺留分侵害額の請求権を行使して初めて発生すると考えられています。
しかも、上記のとおり、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅してしまいます。
そのため、まずは弁護士から相手方に対して、遺留分を請求する旨、内容証明郵便を差し出してもらうことがポイントとなります。
内容証明郵便に配達証明をつけると、その書面がいつ相手に届いたかを証明することができます。
口頭や普通郵便で相手に遺留分を請求すると、後日、相手から「遺留分の請求を受けていない」などと主張され、消滅時効を援用される可能性があります。
この場合、言った言わないの争いとなり、遺留分の請求が認められなくなるおそれがあります。
このようなトラブルを回避するために、相続問題にくわしい弁護士に内容証明郵便を差し出してもらうことを強くお勧めします。
②遺留分の調停
これは、裁判所(調停委員会)を通じて、話し合いによって解決する方法です。
遺留分の問題について、裁判所を利用して解決しようとする場合、いきなり裁判ではなく、通常は家裁の調停を経なければなりません(家事手続法257条)。
これを調停前置主義といいます。
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メリット当事者同士でどうしても解決できない場合は事態を打開できる可能性があります。
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デメリット調停手続は一般に長期間を要する傾向にあります。また、平日の昼間に行われるので会社勤めの方は休んで裁判所に行く必要があります。
1回あたりの調停に係る時間も数時間程度に及ぶので相当な労力を要します。
弁護士に依頼することで、精神的な負担や労力を減らすことができますが、示談交渉を依頼するよりも弁護士費用が高額化する可能性があります。
調停の前に、まずは弁護士に頼んで、遺留分を請求する通知を内容証明郵便で差し出してもらうことをお勧めします。
調停の場合、申立書に遺留分侵害額請求権行使の意思表示が記載されたものを見受けますが、調停は裁判と異なり、単なる送付であって、送達手続までは必要とされていません。
また、受け取った受領書の提出も義務付けられていないため、意思表示が相手に到達したか不明なまま手続が進行することが考えられ、その場合、消滅時効にかかるおそれがあります。
家裁の管轄は、相手の住所地を管轄する家裁又は当事者が合意で定める家裁となります。
申立てに必要な書類
- 戸籍謄本
被相続人の遺産の額、贈与した財産の価格、債務の額を明らかにする必要があるため、その資料を提出します。 - 遺産目録、遺贈又は贈与目録、債務目録を提出します。
- 遺留分侵害額請求権行使の意思表示が相手に到達したことを疎明する資料(前述した内容証明郵便と配達証明等)があれば提出します。
③遺留分の裁判
当事者同士の協議や調停でも解決しない場合、裁判所に訴えを起こす必要があります。
裁判は、調停のような話し合いの解決を目指すものではなく、最終的には判決という形で裁判所の判断が示されます。
管轄裁判所は、相続開始時における被相続人の普通裁判籍所在地の地方裁判所又は簡易裁判所となります(民事訴訟法5条14号)。
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メリットプロの裁判官の判断が示されるという特徴があります。
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デメリット裁判は、調停と同様に一般に長期間を要する傾向にあります。
裁判手続は、複雑であり、専門的知識や技術が必要となるため、通常、弁護士に依頼して行います。
本人訴訟も法律的には可能ですが、調停手続以上に素人の方が自分自身で進めていくのは難しいと思われます。
裁判は、弁護士の労力も相当程度必要となるので、弁護士の手数料は示談交渉よりも高額化する可能性があります。
裁判は高度な専門知識と豊富な経験が結果を変えることがあります。
そのため、相続に精通した弁護士に依頼することがポイントとなります。
費用については、依頼前に見積もりなどをしてもらい、納得した上で依頼されるとよいでしょう。
以上の遺留分の請求方法について、簡単にまとめると、下表のとおりとなります。
見出し | 示談交渉 | 調停 | 裁判 |
---|---|---|---|
特徴 | 当事者同士の話し合い | 裁判所を利用した話し合い | 裁判所の判決を出してもらう手続 |
メリット | 時間・労力を要しない | 当事者同士で解決しない場合に試す価値がある | プロの裁判官の判断が示される |
デメリット | 相手が応じない場合、交渉が決裂すると解決しない | 時間・労力を要する 調停が不調に終わると解決しない 弁護士費用の高額化 |
時間を要する 弁護士費用の高額化 |
ポイント | 内容証明郵便を差し出す | 内容証明郵便を差し出す | 専門家に任せる |
※一般的な傾向であってケースによって異なります。
遺留分の請求の順番とは
遺留分の侵害する行為は一つとは限りません。
遺留分を侵害する遺贈や贈与が複数存在するときは、侵害額請求を行う順番が問題となります。
この順番について、法律は次のように規定しています(民法1047条1項)。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
上記の規定をまとめると、下表のとおりとなります。
状況 | 請求の順番 | 備考 | |
---|---|---|---|
第1順序 | 遺贈と贈与がある場合 | 遺贈から請求 | |
第2順序 | 遺贈が複数ある場合 | 遺贈の価額の割合に応じて請求 | ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う |
第3順序 | 遺贈が請求され、それでも遺留分が保全されない場合 | 贈与が請求の対象 | |
第4順序 | 贈与が複数ある場合 | 相続開始時に近い贈与から請求し、順次前の贈与に遡る | 贈与が同時の場合は、第2順序に準じて請求 |
死因贈与がある場合
死因贈与は、贈与する人が死亡した時点で、事前に指定した財産を贈与するという贈与契約です。
形式は贈与ですが、実質は遺贈に近いことから、遺留分の請求順序をどうするかが問題となります。
この点について、裁判例は、以下のように判断しています。
判例 遺留分の請求順序についての裁判例
「死因贈与も、生前贈与と同じく契約締結によって成立するものであるという点では、贈与としての性質を有していることは否定すべくもないのであるから、死因贈与は、遺贈と同様に取り扱うよりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり、ただ民法1033条及び1035条の趣旨にかんがみ、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である」
【東京高判平12.3.8】
まず、遺贈から請求し、それでも遺留分が保全されない場合に生前贈与よりも先に対象とすべきと判断しています。
遺言がある場合
また、上記の裁判例で、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言については、前記裁判例は、遺贈と同様に解するのが相当であると判断しています(東京高判平12.3.8)。
以上をまとめると、次の順番となります。
①遺贈・相続させる遺言 ⇒ ②死因贈与 ⇒ ③生前贈与
遺留分は放棄できるか
遺留分は、相続開始前であっても、家裁の許可を得ることを条件として、放棄することが可能です(民法1049条)。
遺留分の放棄は、死後の遺産紛争を回避したり、円滑な事業承継のために利用される傾向です。
例えば、次のような事案の場合に遺留分の放棄が考えられます。
・生前、婚外子に財産を贈与する代わりに、遺留分を放棄してもらう場合
・高齢の被相続人と同居し、献身的に看護してくれている子供に高額な財産を贈与し、その他の相続人に遺留分を放棄して貰う場合
上記のような事案においては、事前に遺留分を放棄してもらうことで、死後の紛争を回避できる可能性があります。
もっとも、無制限に放棄を認めてしまうと、被相続人の威圧的な言動によって遺留分権利者に放棄を強要するなどの弊害が懸念されます。
そこで、法律上、家裁の許可が必要とされています。
なお、相続開始後であれば、遺留分は家裁の許可なしに自由に放棄できます。
この場合、放棄の意思表示は遺留分侵害額請求の相手方に対して行います。
遺留分と事業承継の問題
遺留分の放棄は、被相続人である会社経営者が経営権を特定の相続人に集中させたい場合にも活用されます。
すなわち、推定相続人が複数いる場合、後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた結果、自社株式が分散してしまうなど、事業承継にとっては大きなマイナスとなる場合があります。
このような問題があることから、経営承継円滑化法は、「遺留分に関する民法の特例」を規定しています。
この特例を活用すると、後継者を含めた推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、次の2つの方法を取ることが可能となります(療法を組み合わせることも可能)。
①遺留分算定基礎財産から除外(除外合意といいます。)
②遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意といいます。)
固定する合意時の時価については、合意の時における相当な価額であるとの弁護士等による証明が必要となります。
くわしくは、相続法に詳しい専門家にご相談されてください。
「事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例」について、くわしくは金融庁のホームページをごらんください。
遺留分放棄の流れ
家裁への許可の申立て
遺留分の放棄は、遺留分権利者自身が被相続人の住所地を管轄する家裁に申し立てる。
放棄についての許可の審判
家裁は、権利者の自由意思、放棄の理由の合理性、放棄と引き換えの代償の有無などを考慮して許可の審判を行う。
申立て却下時は即時抗告
遺留分放棄の申立てが却下された場合、不服申立て(即時抗告という。)が可能。
審判確定
遺留分侵害額請求ができなくなる。その結果、被相続人の自由に処分できる財産が増加する。

遺留分の放棄は、遺留分侵害請求権の行使を不可能とするものであって、相続権まで失わせるものではありません。
したがって、遺留分を放棄しても、相続開始後は相続人となります。
遺産分割により遺産を取得することも可能です。
代襲相続の場合、被代襲者が遺留分の放棄をしていれば、代襲相続人も遺留分はありません。
また、遺留分権利者が複数いる場合、ある遺留分権利者が遺留分を放棄しても、他の遺留分権利者の遺留分は増加しません(民法1049条2項)。

例えば、死後の紛争を防止するために、生前、婚外子であるAさんに対して、財産を贈与する代わりに、遺留分を放棄してもらったとします。
この贈与は特別受益に該当し、かつ、相続開始前の10年間にされたものとします。
この場合、仮に、他の相続人が遺留分を侵害されていると、その相続人らから遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分の放棄は、放棄した者について遺留分侵害額請求ができなくなるという効果を生じさせるものであっって、他の相続人らの遺留分侵害額請求権には影響を及ぼさないからです。
したがって、この場合、Aさんは、代償としての贈与を確保できなくなる可能性があります。
このような事態を防ぐために、代償としての贈与によって、他の相続人らの遺留分を侵害する可能性がないか等、よく検討しておく必要があります。
まとめ
以上、遺留分の基礎的な知識について、詳細に、かつ、できるだけわかりやすく解説しました。
上述したように、遺留分については、侵害額の計算方法が複雑であり、相続に関する専門知識がないと算定が難しい場合があります。
また、請求方法についても、具体的な状況において、相手に通知すべき内容は異なってきます。
さらに、実務においては、そもそも遺留分が侵害されているのかがわからないということが多くあります。
すなわち、遺留分の侵害額を算定するためには、遺贈や贈与の目的物を特定し、その価額について評価をしなければなりません。
しかし、この点について、素人の方では調査ができなかったり、評価が難しいという問題があります。
また、遺産についても同様に調査と評価が必要です。
したがって、遺留分については、上述した内容について参考程度にとどめ、専門家の適切なサポートを受けながら勧めていくことをおすすめします。
当事務所の相続対策チームは、遺留分に関しての専門相談を行っております。
ご相談の流れについてはこちらのページをご覧ください。