被相続人(亡くなった方)に遺産がある場合、遺産分割を検討する必要があります。
遺産分割調停は、家裁を利用して遺産分割を行う手続きです。
裁判所の手続きですので、初めての方は、何をどうしたら良いのかわからいご状況だと思います。
弁護士と税理士の資格を持つ専門家が遺産分割調停について、わかりやすく解説いたします。
この記事でわかること
- 遺産分割調停のメリットとデメリット
- 遺産分割調停の流れ
- 遺産分割調停の必要書類
- 遺産分割調停の費用
- 遺産分割調停で注意すべきこと
- 遺産分割を有利に進めるポイント
遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、家庭裁判所において、話し合いによって遺産分割を行う手続きとなります。
当事者の1人が裁判所に調停を申立てることにより、調停は開始されます。
調停は、通常、男女1人ずつの調停委員と裁判官1人の3人で調停委員会が構成されます。
そして、この調停委員会が公平な第三者の立場から、各相続人の言い分を聞き、それを相手に伝え、和解案(調停条項案)を提示するなどして、調整成立を目指します。
遺産分割調停の流れ
遺産分割調停の一般的な流れは下図のとおりです。
各手続きの詳細については、下記で説明しています。
遺産分割調停の手続きの説明
①遺産分割調停の申立て
遺産分割は、相続人に申立て権があり、他の相続人を相手方として、家裁に申立てを行います。
以下は調停の申立てについての必要な情報をまとめたものです。
管轄裁判所
次のいずれかの家裁となります
- 相手方のうちの一人の住所地を管轄する家裁
- 当事者が合意で定めた家裁
申立てに必要な書類
遺産分割申立書とその添付書類
- 相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本 ※3か月以内に発行されたもの
- 相続人全員の住民票又は戸籍附票 ※3か月以内に発行されたもの
- 家系図
遺産分割は、上記のとおり、調停申立書の提出が必要となります。
当事務所では、調停申立書をホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
②調停期日の通知
調停を申し立てると、家裁から第1回目の調停期日の通知があります。
申立てから、早くても1〜2ヶ月後となるでしょう。
期日は、平日の昼間となります。
概ね10時から17時の間の2時間〜3時間程度で、午前の部と午後の部に分かれている場合が多いです。
申立人側に代理人弁護士がついていると、事前に弁護士に期日の調整があるので、都合が悪い日時は避けることができるでしょう。
相手方の場合は、通常は期日が指定されているので、その指定された日時に出席することになります。
ただし、用事等で参加できない場合は、その旨連絡し、2回目以降に出席するケースもあります。
調停や審判に正当な理由なく出頭しない場合、法律上は「5万円以下の過料」に処せられます(家事事件手続法第51条、第258条)。
参考:家事事件手続法
ただし、筆者の経験上、過料に処せられるケースはほとんどないと考えられます。
しかし、呼び出しの無視は絶対にすべきでありません。
調停手続きに出席しないと、自分の言い分を主張できず、不利な結果となる可能性があります。
出席できない場合は、家裁に連絡し、欠席したい旨を伝えましょう。
その場合、次回期日に出席する方向で調整してくれるはずです。
また、遠方の場合は、状況しだいで電話会議を活用するとよいでしょう。
電話会議とは、家裁に直接出席せず、電話で調停に参加するという方法です。
法律事務所の場合は、法律事務所の電話会議システムを使って参加することが可能となるため、調停委員との意思疎通も容易にできるでしょう。
③調停期日に出席
裁判所で受付を済ませると、当事者は、申立人と相手方に分かれ、別の待合室に入ります。
第1回目は、まず申立人側から話を聞くことが通例です。
調停室に呼ばれるので、調停室に入り、調停委員からの質問事項に回答します。
代理人弁護士がついていれば一緒に調停室に入り、弁護士が主張を伝えたり、証拠の説明を行ったりします。
次に、相手方(他の相続人)と交代し、相手方が話をしている間、待合室で待機します。
このように、調停は、当事者が調停室に交互に入り、個別に話を聞く形で進行することが通例です。
したがって、複数の当事者が一度に顔を合わせて議論をするようなことはありません。
なお、調停室には、通常、調停委員2人のみが待機しており、話を聞くことになります。
裁判官は重要な局面では同席しますが、基本的には調停委員2人のみの対応となります。
調停の話し合いの内容とは
調停では以下の5つのポイントを中心に話合いが行われます。
相続人が他にいないかや各相続人の相続分を確認します。
被相続人が残した財産(遺産)の範囲を確認します。
被相続人が残した財産が確認できた場合、その評価の方法や評価額を決めます。
生前贈与をうけた相続人がいる場合、あるいは被相続人の生前に遺産の維持形成のために特別に活動した相続人外ある場合は、その内容を確認します。
各相続人が、遺産分割により最終的に取得する金額を決定します。
調停の頻度と期間
調停期日は概ね1から2ヵ月に1回のペースで進みます。
ただし、夏や春は、裁判所の休廷期間があるため、次回調停が3ヶ月ほど先になってしまう可能性もあります。
遺産分割調停は、解決まで数回の期日を経るのが一般的です。
遺産分割調停は争点も複雑化しやすく、早くても半年、長ければ数年を費やすこともあります。
調停委員会の評議
最初の数回の期日を重ねた後、裁判所の評議に移ります。
ここで、争点を絞り、明確化します。
その後、期日と評議を重ねて、合意を成立させることを目指します。
④調停成立
調停が成立すると、調停調書が作成されます。
調停調書には、合意事項が記載されています。
そして、この調停での合意に基づき、遺産を分割することになります。
調停調書の具体的な記載内容は、預貯金、不動産、株式など個別の遺産を誰が取得するか、支出した費用(葬儀代など)を誰が負担するか、などとなります。
また、清算条項といって「今後はお互いに何も請求しない」という内容の文章も記載されています。
調停調書は、話し合いの結果の書面ですが、判決書と同じ効力を持ちます。
すなわち、義務者が履行しない場合、強制執行が可能となります。
⑤調停不成立
調停は、あくまで裁判所を使った話合いになります。
そのため、当事者間で合意できなければ、調停は不成立となります。
調停が不成立となると、次は審判手続に移ります。
審判手続へは自動的に移行するため、別途の申立ては不要です。
⑥審判手続
審判手続とは、調停のような話し合い異なり、当事者双方の言い分や証拠をもとに、裁判官が遺産分割ついて決定し、命令を出す手続きをいいます。
なお、審判結果に納得がいかない場合、2週間以内に、高等裁判所へ不服申立て(「即時抗告」そくじこうこく)を行うことが可能です。
遺産分割調停の費用
遺産分割調停を行う場合、まず、裁判所に納める費用が必要となります。
そして、弁護士に依頼される場合はその弁護士の報酬が必要となります。
裁判所に支払う費用
裁判所に対しては、以下の印紙代、郵便切手代等が必要となります。
印紙代 | 被相続人1名につき1200円 |
切手代 | (100円×2枚,82円×5枚,10円×10,5円×1枚)×相続人の人数 |
また、戸籍謄本等を取り寄せる場合の実費も必要です。
弁護士費用
各法律事務所によって金額が異なります。
また、遺産の額によっても金額が異なります。
例えば、遺産が100万円のケースと1億円のケースとでは、弁護士の報酬も異なります。
明朗会計の法律事務所であれば、法律相談時にお見積りを出しくれると思いますので、まずはご相談されてはいかがでしょうか。
法律相談については、無料で対応してくれる法律事務所もあります。
遺産分割調停のメリットとデメリット
遺産分割調停を利用するメリット
①柔軟な解決が期待できる
調停は、話し合いによる解決であって、「法律上、何が正しいのか」を決める場ではありません。
したがって、本来、法律上は認められない請求でも、合意が成立する可能性があります。
例えば、法律上100万円しか遺産を受け取れない場合でも、相手が譲歩してくれたら200万円を受け取れることがあります。
また、調停は、本来は家裁で判断できない事項についても、合意できる場合があります。
例えば、預貯金の使い込みの問題です。
すなわち、預金の使い込みが疑われる場合には、それは遺産の範囲という遺産分割の前提問題であり、実体法上の問題ですので、民事訴訟において決める事柄であって、遺産分割調停で決めることではありません。
使い込んだ金銭の返還を求める場合には、使い込んだ者を被告として、不当利得返還請求ないし不法行為に基づく損害賠償請求の裁判をすることになります。
ただし、当事者全員の合意があれば、調停手続の中で扱うことが可能です。
②公平な第三者の意見が示される
遺産分割調停は話し合いですが、話し合いが平行線をたどると、調停委員会による評議の結果として、争点に対する見解が示される場合があります。
この見解を当事者が受け入れれば、調停が成立する可能性もあります。
また、調停は、話し合いがまとまらないと最終的には審判へと移行します。
そして、審判では裁判官による決定が出て、判断結果が示されます。
このようにして、公平な第三者である裁判官の判断結果が示されるという点は、遺産分割調停を申し立てるメリットといえます。
なお、理論上は、遺産分割調停の前に、審判を申し立てることも可能ですが、家裁は「親族の問題はできるだけ話し合いで解決する」というスタンスを取っているため、調停に付されるのが通常です。
遺産分割調停を利用する3つのデメリット
①解決まで時間と労力を要する
調停手続きの最大のデメリットは、時間と労力を要するということです。
上記のとおり、調停手続きは長くなると数年を要します。
その間、裁判所に定期的(1〜2ヶ月毎)に行くことになるため、労力もかかります。
また、平日の昼間ですので、会社員の方は仕事を休んで出席しなければならないでしょう。
なお、裁判所の統計資料によれば、2019年の遺産分割事件の総数1万2785件のうち、審理期間は1年以内が4333件と最も多く、次いで2年以内が3034件でした。
反対に、6ヶ月以内は2813件に過ぎませんでした。
また、実施期日回数は、6回〜10回が3035件と最も多い状況でした。
引用元:司法統計|最高裁判所
②調停委員会のミスリードの危険がある
調停委員に関しては、多くの方が誤解されています。
遺産分割調停で普段対応してくれる調停委員は、決して法律の専門家ではありません。
調停委員会は、上述のとおり通常3名で構成されており、裁判官の他に2名がいます。
そして、裁判官は忙しいため、調停成立時などの重要な局面でしか目の前に現れません。
つまり、実際に対応しているのは、法律の専門家ではないのです。
そのため、相続法に関して、間違った発言をされている調停委員の方もいらっしゃいます。
相続法に詳しい弁護士が同席していれば、その間違いを正せますが、弁護士がいないケースの場合、ミスリードによって、損をしてしまう可能性が懸念されます。
調停委員は、最高裁の規則では、次の中から、人格識見の高い年齢40年以上70年未満の者が任命されることとなっています。
- 弁護士となる資格を有する者
- 民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者
- 社会生活の上で豊富な知識経験を有する者
引用元:民事調停委員及び家事調停委員規則
しかし、筆者の経験上、1.と2.に該当する方は稀だと感じています。
そもそも、弁護士や専門家であれば、平日の日中に相当な時間を割かれる家事調停委員を引き受けるケースは想定し難く、ほとんどの方は、一般の方で、第一線を退いたご年配の方と考えられます。
③決めることができる内容が限られている
遺産分割調停は、遺産をどのように分割するかを決めるだけです。
そのため、その前提となる、相続人の範囲、遺言書の有効性、遺産の範囲といったことについては、調停では決めることはできないか、又は実務上は調停において決めないことになっています。
遺言がある場合に、遺言が無効かどうかの判断は遺産分割をするかどうかの判断にも関わる重要な前提問題のため、遺産分割調停の手続内では行うことができません。
この場合は、遺言無効確認の訴えを提起し、判決により確定させるしかありません。
メリットとデメリットのまとめ
以上の遺産分割調停のメリットとデメリットをまとめると、下表のとおりとなります。
メリット | デメリット |
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遺産分割を有利に進める5つのポイント
POINT① 調停は次善の策とする
遺産分割調停は、上記のとおり、解決まで時間と労力を要するという大きなデメリットがあります。
そのためまずは協議による遺産分割をお勧めします。
また、当事者のみでの協議がうまく行かない場合、弁護士に代理人となってもらい、相手と交渉してもらうとよいでしょう。
弁護士に間に入ってもらうことで、協議が進み、早期解決できる可能性があります。
したがって、まずは協議で試してみて、それでも解決できない場合に次善の策として、調停を申し立てることをお勧めいたします。
POINT② 相続問題に強い弁護士を代理人に選任する
遺産分割を適切に行うためには、遺産をもれなく調査し、かつ、正しく評価する必要があります。
これを実施しないと、遺産分割で損をしてしまう可能性が高くなるからです。
また、遺産分割調停では、上記のとおり、調停委員によるミスリードが懸念されます。
そのため、相続問題に精通した弁護士に相談されることをお勧めします。
相続の専門家であれば、遺産の調査方法を助言し、その評価も実施できます。
また、調停委員のミスリードに対しては、誤りを指摘し、依頼者が不利益を被らないようにしてくれるでしょう。
さらに、調停になれた弁護士であれば、依頼者が仕事などで調停への参加が難しい場合、弁護士一人で調停に出席してくれる場合もあります。
なお、裁判所の統計資料によれば、2019年の遺産分割事件の総数が1万2785件であったところ、代理人弁護士が関与していた事件は1万0080件であり、全体の約79%に弁護士がついていることがわかります。
引用元:司法統計|最高裁判所
POINT③ 期日間に交渉を進めてもらう
遺産分割調停が長期化するのは、期日間が1〜2ヶ月と長いからです。
依頼する弁護士に、調停期日だけではなく、期日間を積極的に利用して、相手と交渉を進めてもらえれば、解決までの期間を短縮できるはずです。
特に、相手にも弁護士がついている場合、代理人間で交渉することで、スピーディーに解決できる可能性があります。
POINT④ 調停委員会まかせにしない
上述のとおり、調停委員は、人格的には優れていても、法律の専門家ない可能性があります。
調停委員会に対して、反抗的になる必要はありませんが、言いなりにならないようにすべきです。
POINT⑤ 評議をうまく活用する
相続人の主張が平行線をたどると暗礁に乗り上げます。
このような場合、相続人の方から、調停委員会で評議をしてもらうように促して見られることをお勧めします。
評議では、裁判官も加わるため、一調停委員の意見ではなく、裁判所としての見解を示してもらうことが可能となります。
評議の結果が示されれば、それをベースとして調停が成立する可能性もあります。
まとめ
以上、遺産分割調停について詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
遺産分割調停は、メリットよりもデメリットの方が大きいと考えられるため、まずは協議による解決を試みるべきです。
また、遺産分割は相続に関する専門知識がないと不利益を被る可能性があります。
そのため、遺産分割に関しては、相続問題に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
この記事が相続問題に直面されている方にとってお役に立てれば幸いです。